何度でも、伝える愛の言葉。
『ただ自信がなかっただけです。私が弾かなくなったって誰も困らないし。』
あまりにも悲しく虚しい言葉をサラッと言って、澪は無理に作ったような笑顔で会話を断ち切るようにピアノを鳴らした。
「俺らは困るよ、澪がピアノ弾かなくなったら。」
澪の手が止まる。
5人になったバンドはまだ始まったばかりだ。
だけど俺たちはもう分かっている。
このバンドには澪が居てくれなければならないと。
その想いは、ちゃんと伝えておきたかった。
『…ほんとに?』
「ほんと。すっげぇ困る。だからもう辞めるとか言うなよ。」
『うん…ありがとう。』
本当は気付いている。
ただ自信がなかっただけなんて理由は嘘なんだと。
私が弾かなくなったって誰も困らない…そこまで思うようになった理由は何か。
どうして、悲しそうに笑いながら目の奥で泣くのか。
聞きたい。
だけど聞けない。
結局その話はそこで終わり、その後は飽きもせずに2人で音を合わせていた。
澪のピアノはとても心地よく、まだ完璧じゃないという言葉はきっと謙遜だろうと思った。
澪は、俺たちの曲をもう完全に自分の物にしていた。
「すげぇ楽しかったよ。」
『私も。久しぶりに弾いてて楽しいって思いました。』
そろそろ帰るという澪の後片付けを手伝い2人でスタジオを出ると、ちょうど同じ制服を着た生徒たちが下校していくところだった。
『今日は、みんなは?』
「悟はスクールで、悠斗は家で作業すんじゃかいかな。誠太はたぶんデート。」
『へぇ〜誠太さんって彼女居るんだ。』
「あー…澪もこれから分かると思うよ。ノロケまくるから、あいつ。俺らもう耳にタコできまくり。」
これは大げさでもなんでもない話だ。
それを聞いた澪はこの日1番とも言える笑顔を見せた。
可愛いな、いつもそうやって笑っててくれればいいのに…。