何度でも、伝える愛の言葉。
『まだ居るかと思って来たんだけど、樹季も来てたんだ。』
「あぁ、どうせ暇だし。」
『暇だったら授業は出ろよ。卒業できねーぞ。』
「大丈夫だって。」
そんな俺たちのやりとりを澪は微笑ましそうに見ている。
話に入ってこないのは、まだ少し遠慮があるということか。
『あ、悠斗さん。鍵ありがとうございました。』
『もう帰るんだ。』
『はい、今日はいっぱい弾いたので。』
『そっか、お疲れ。あと悠斗で良いって言ったろ?』
『あ…じゃあ悠斗、くん。』
俺のときと同じ反応をする澪がおかしくて思わず吹き出した。
澪もそれに気付いているらしく『笑わないでください』とふくれている。
『じゃあ、俺行くわ。』
「おう。」
『また明日な。』
最後の言葉は澪だけに向けられたものだろう。
これには気付いていないのか、澪はいつもの調子で頷く。
悠斗と別れてから、俺たちはまた2人並んで歩き出した。
『あ、そういえば…』
「ん?」
『さっき、何か言おうとしてたんじゃ…?』
悠斗が来る少し前だ。
確かに言おうとしたことがある。
でもなぜか、もう1度話そうとは思わなかった。
悠斗に会った直後だからかもしれない。
あいつが澪に接するときの態度や言動…。
悠斗のことは、ずっと一緒にいるからそれなりに分かっているつもりだ。
あいつは澪を……、
「なんか忘れちゃったわ。」
分かりやすいはずの嘘を、澪は全く疑うことなく笑った。
なぁ悠斗…、
お前はこの笑顔を傷つけても良いのか…?