何度でも、伝える愛の言葉。

『さぁ彼女のために練習しますか!』

『うるせー!デビューするために練習しろ!』


悟の真っ当なツッコミに思わず笑う俺の隣で、一瞬考え込むような表情をした澪が見えた。

さっきまで楽しそうに話を聞いていたのに…。

どうした…?

そう思っても今ここで聞けるはずもなく、俺はマイクをセットして頭を切り替える。

澪はそんな表情をしたことがなかったかのように再び笑顔を見せている。


予感はある。

澪が何か大きなものを背負っているのではないかという予感。

本当にこれから先俺たち5人でバンドを続けていくのなら、解消しなければならないことが沢山あるような気がした。


誠太はあの通り彼女と幸せにやっているし、悟は恋愛よりもバンドという風に音楽と向き合っている。

俺はどちらかと言うと悟と同じだ。

誠太みたいに器用に両立なんてことはできず、恋愛しても失敗続き。

音楽を理由に恋愛からは背を向けている。

悠斗は…、きっとそのどちらでもない。

そして、澪も。



『おーい樹季、始めんぞ。』

「あ、あぁ…悪い。」


そんなことを考えている内にいつの間にかスタンバイは終わっていて、メンバーが今か今かと楽器の前で待っている。

今は、歌に集中だ。

週末には地元のライブハウスでライブができることになっている。

誠太の兄貴が可愛がっている後輩バンドがライブをするらしく、そのオープニングアクトに俺たちをねじ込んでくれた。

地元ではそこそこ有名なバンドだ。

きっと満員になるだろう。

そこで俺たちの音楽をしっかりと知らしめたい。


そしてそれが、澪のライブデビューだ。



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