何度でも、伝える愛の言葉。
あの日の記憶
【澪 Side】
頭に置かれた手が、とても温かかった。
バンドに入ってから2ヶ月と少し、季節は夏に変わろうとしている。
スタジオの中は暑く、窓を開け放っていても風はなかなか入ってこない。
そんなスタジオの中で悠くんと歌詞の最終確認をしている。
優しく私の髪を撫でたその手で、悠くんはノートに言葉を書き続けていた。
自分のことを歌詞にすると重くなると言った悠くん。
そんなことないと言った私。
本当は私自身がそう思いたかっただけなのかもしれないけれど、そんな悠くんの歌詞も見てみたいと素直に思ったことは事実だ。
悟くんに作詞をやってみないかと言われてから悠くんに歌詞の書き方を教わり、ここまで共に書いてきた曲は私が続きを書いて完成させることになった。
私も悠くんに言ったように、本当のことを、自分のことを書いてみようか。
きっと悠くんは、大切な人を想って書くのだろう。
一途に想い続けるあの人のことを。
私が余計なことを言ってしまったかもしれないけれど、きっと冷静に向き合えるようになるまでは時間がかかったはずだ。
忘れてしまいたくない、だけど持ち続けるのには少し重い気持ち。
私は、まだ向き合えていない。