何度でも、伝える愛の言葉。

私がその名前を聞いたのは、練習漬けの日々のお陰でやっと忘れかけていたときだった。



『澪ー。今日スクールで早坂先生と話したんだけどさー。』

「え?」


悟くんの口から早坂先生の名前が出た瞬間、譜面台から手が滑り落ちて鍵盤の高い音を叩いた。



『澪はバンドの中でうまくやってるかーって心配してたよ。』

「そ、そうだったんだ。」


動揺するな、私。



『うん、だからうまくやってますよーって言っといた。今度ライブ観に来てくれるってさ。本当良い先生だよな〜。』


今度、ライブ、観に、来る…?


鼓動がだんだん早くなり、不意に蘇る様々な記憶。

私がピアノを弾くことは…、



『悟、ちょっとここなんだけど。』


樹季くんの声が聞こえて我に返る。



もう早坂先生のことは忘れようって決めたじゃないか。

スクールを辞めたときも、
バンドに入ったときも。

“早坂先生の面影はもう追わない”と。


そう、決めたじゃないか。



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