何度でも、伝える愛の言葉。

「すごく綺麗です。それ、もしかして先生が描いたんですか?」

『いや、これは友達が描いたんだ。俺にそんな才能ないよ。』


そう言って笑った笑顔には、まだどこか少年ぽさが残っていた。



「どうしてこんなところでギター弾いてたんですか?」


帰るなら、会話が終わった今だったかもしれない。

でも私は、先生の傍へと歩きながらそんなことを聞いていた。


大人な雰囲気とは少しイメージの違うあどけない笑顔。

その中に、どこか寂し気な目を見た気がしたから。



『あっち、まだ生徒が何人か残ってるから。ここならもう誰も来ないかと思ってたんだけど…まさか忘れ物があったとはな〜。』

「あ、ごめんなさい。お邪魔しちゃって…。」

『いやいや冗談だから。勝手に入ってた俺が悪いよ。』


とても上辺だけの、当たり障りのない会話。

初対面だから当たり前なんだろうけど、私には先生が意識的にそうしているように見えた。


ギター弾いてるところ見られちゃった。
でもこれ以上近寄らないで。

そんな言葉が先生から発せられているような気がして、私はそれ以上近くに行くことができなかった。



「私、帰りますね。」

『おう、気を付けてな。』


ひとつお辞儀をしてから教室を出て、しばらく耳を澄ましてみたけれどギターの音はもう聴こえてこなかった。



< 58 / 276 >

この作品をシェア

pagetop