何度でも、伝える愛の言葉。

「思い出してって言われても…。」

『また忘れ物をすれば先生に会えるかもしれない!みたいな感じでさ。』


イタズラっぽく笑う顔が、前に会ったときよりも近くに感じた。


思い出さなかった訳ではない。

むしろ期待していた。

またあんな風に2人で話をしたいと。


だけど…、



「先生が、遠かったから。」


あのとき、先生の周りに張り巡らされていたバリア。

会わなかった1年、近付けなかったのではない。

先生が遠かった。

柔らかく柔らかく、人を拒絶していた。



『…日々野さんは、良い子だね。』


膝に抱えたままだったギターを近くに立て掛けて、先生は私の前に立つ。



『ずっと気になってた、あのとき日々野さんに冷たい態度をとってしまったこと。』

「そんな…私は、別に。」


そこまで言って言葉に詰まる。

気にしていないとは言えなかった。



『でもまたすぐに会えると思ってたから、そのとき謝れば良いかって…それもそのときは軽い気持ちで。』

「軽い気持ち?」

『生徒に対してそこまで心を開く意味が分からなかったんだ。』


投げやりな言い方だった。

だけど心が、泣いているような気がした。


< 62 / 276 >

この作品をシェア

pagetop