何度でも、伝える愛の言葉。
放課後、先に中庭に来たのは悟だった。
『あれ、日々野さんまだ?』
「あぁ。」
息を切らしながら聞く悟に、それだけ走ってきたお前より早いわけねーだろ、と心の中で突っ込む。
澪はそれから10分程待った後に来た。
通信には制服がないが、澪は悟が『頼めば貰える』と話していた標準服を着ていた。
普通科の制服とは少し色が違うブレザーとチェックのスカートに大きめのリボンという制服がとても似合っている。
『すいません、遅くなってしまって。』
『いやいや、全然大丈夫だから!さぁ座って座って。』
全身から緊張が溢れている澪を、緊張感ゼロの樹季がベンチに座らせた。
頑張っても3人しか座れないベンチには澪と樹季と俺が座り、誠太と悟はそのまま地べたに座っている。
「いきなり本題で悪いんだけど…。実は俺ら、この4人でバンド組んでてさ。それで今キーボードの子を探してるんだ。」
『え?』
この言葉で少し内容を悟ったのか、澪が困ったような顔をする。
『早坂先生って知ってる?駅前の音楽スクールの。』
『…はい。』
『俺あそこに通ってるんだけど、早坂先生に相談したら日々野さんのこと勧めてくれてさ。それで声かけさせてもらったんだ。』
『早坂先生が…?』
澪はかなり戸惑っているように見えた。
先生に勧められたのに、嬉しくないのだろうか…。
『日々野さんもあっこ通ってるんだよね?』
澪は小さく頷いた後、何かを言おうとして不意に俺を見た。
初めて、目が合った瞬間。
人を信用していないような目。
だけど近くで見た澪の目は、その中にすがるような切実さが含まれていた。
不思議な力を持つその目に、俺は吸い込まれそうだった。