何度でも、伝える愛の言葉。
なのに、今にも泣き出しそうな顔で切々と訴える三好さんを前に、また何も言えなくなってしまう。
『ちょっとピアノが上手いからチヤホヤされただけでしょ?』
「違う、よ。」
『私はあんたのピアノなんて聴きたくもない。』
その言葉に、今度こそ本当に何も言えなくなった。
心の奥深く、どうやったって消せない傷が疼き出す。
先生も、もう私のピアノなんて聴きたくないのかな。
私のピアノが好きだって言ってくれたことも、嘘だったの?
思い出したくもない、二度と味わいたくもない、ひとりになっていく恐怖と喪失感。
私がピアノを弾かなければ、こんな気持ちになることもなかった。
あのときも、今も。
私がピアノさえ弾いていなければ。
唯一の救いだったピアノから、初めて離れようと思った瞬間だった。
先生はすぐに『そんなことないよ』って、三好さんが言ったことは全部『嘘だよ』ってそう言いに来てくれると思った。
だけど待てど暮らせど、先生の声を聞ける日は来なかった。
私はスクールもピアノも辞めて、先生のことを忘れようと決めた。