何度でも、伝える愛の言葉。

『でも、もう辞めたので。』


小さいながらもハッキリと言った澪の言葉に迷いは感じられなかった。



『え?辞めちゃったの?』

『はい、もう行きません。』


これまで俺たちの全ての言葉に曖昧な反応だった澪が突然キッパリと言ったためか、樹季が『どうする?』という目を俺に向けてくる。



『へぇーそうなんだ。じゃあ俺たちのバンド入ってくれないかな?』


少し気まずい雰囲気など全く感じないのか、誠太がいきなり直球をぶつけた。

こいつの空気の読めなささも、たまには役立つもんなんだな…。



『ごめんなさい。私、もうピアノも辞めるので。』


だけどそんな誠太の誘いを、澪はハッキリと断った。

ピアノも、辞める…?

澪はもう1度『ごめんなさい。』と呟き足早にその場を立ち去ろうとした。



『待って。』


そんな澪を樹季が呼び止める。



『ピアノ辞めるってなんで?』

『………。』


俺たちは黙って2人を見ていた。



『ハッキリ言うと、俺らは君に入ってほしいと思ってる。話したこともない奴らに急に誘われて困る気持ちもよく分かるけど、俺は…せっかく始めてここまで続けてきた音楽をそんな簡単に辞めてほしくない。』


樹季の言葉は俺たちの気持ちを代弁してくれているようだった。



『……ない。』


ほとんど消え入りそうな程か細い声は、全て聞き取ることができなかったけれど。

澪は、一瞬の静寂の後でハッキリと言った。



『簡単なんかじゃない。』


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