何度でも、伝える愛の言葉。
『簡単になんて辞められないです。』
『じゃあ、どうして。』
平日の中庭はいつだって賑やかだ。
だけど今は静寂が俺たちを包んでいる。
『私には、ピアノを弾く資格がないんです。』
その中に響いた澪の声。
ピアノを弾く、資格がない…。
それはいったいどういう意味だろうか。
ピアノを弾くことに資格なんか要らない。
上手い下手に関係なく、誰でも鍵盤を叩くことができる。
澪の言う“資格”が、技術的なものじゃないとしたら…。
だとしたらそれは、気持ちの問題なのかもしれない。
『なぁ、』
日々野さん、と呼ぼうとした俺の声は樹季の声に遮られた。
『俺らの音楽、聴きに来いよ。』
ストレートな樹季の言葉に、俯いていた澪の顔があがる。
『入るとか入らないとか、弾くとか弾かないとか、今はまだ決めなくて良いから…何も考えずに俺らの音楽聴きに来い。』
きっと、樹季は自信があったのだろう。
俺たちの音楽を聴けば、きっと澪は心動かされるだろうと。