何度でも、伝える愛の言葉。

『簡単になんて辞められないです。』

『じゃあ、どうして。』


平日の中庭はいつだって賑やかだ。

だけど今は静寂が俺たちを包んでいる。



『私には、ピアノを弾く資格がないんです。』


その中に響いた澪の声。

ピアノを弾く、資格がない…。

それはいったいどういう意味だろうか。


ピアノを弾くことに資格なんか要らない。

上手い下手に関係なく、誰でも鍵盤を叩くことができる。

澪の言う“資格”が、技術的なものじゃないとしたら…。

だとしたらそれは、気持ちの問題なのかもしれない。



『なぁ、』


日々野さん、と呼ぼうとした俺の声は樹季の声に遮られた。



『俺らの音楽、聴きに来いよ。』


ストレートな樹季の言葉に、俯いていた澪の顔があがる。



『入るとか入らないとか、弾くとか弾かないとか、今はまだ決めなくて良いから…何も考えずに俺らの音楽聴きに来い。』


きっと、樹季は自信があったのだろう。

俺たちの音楽を聴けば、きっと澪は心動かされるだろうと。



< 9 / 276 >

この作品をシェア

pagetop