白い羽根とシャッター音
「綺麗…」
ポツリと呟いた時だった、
「うん、綺麗」
いつの間にか彼が私のすぐ後ろに立っていた。
「うわあ!びっくりした。…写真もういいの?」
そう聞くと彼はコクリと頷く。
「君は、いいの?」
「え?」
彼の言葉の意図がわからず、思わずきょとんとしてしまう。
「…桜、見たかったんでしょ?」
そう言われて、ゆっくりと桜の木を振り返る。
「うん…でも、やっぱりあなたが言ってた通り、咲いてないね」
辺りはだんだん暗くなってきていて、その色と徐々に同化していく緑色の葉を見ながら答えると、
「来年に、また咲く」
彼は、そう呟いた。
………来年。
もしも、満開に咲いたこの桜を彼と一緒に見ることができたら。
サラサラと気持ちの良い風が私達の間をすり抜けた。
彼の横顔をふと見ると、タイミングよくちょうど彼と目があってしまった。
ドキッとして、慌てて目を背ける。
「…ねぇ、君、名前は?」
名前…
そのフレーズに思わずピクッと反応してしまう。
「名前は、ないよ」
「…?」
首を傾げる彼。
「まだ、ないの…」
更に不思議そうな顔をする彼から目線を地面へと移し、自嘲気味に笑う。
「私は、『名無し』だから」