白い羽根とシャッター音
写真を撮るのを止め、彼女に近付いていく。
町を見渡しながら、彼女の瞳はきらきらとしていた。
やはり咲いてなかった桜に対して、少し残念そうに顔を曇らせる彼女に、
「来年に、また咲く」
と呟くと、更に彼女の顔が曇ってしまった。
どうしたのかと、不安になり彼女の顔色を窺っていたら、目があった。
が、すぐに反らされてしまった。
でも、曇っていた顔が急激に桜色になっていくのがわかり、ホッとする。
「…ねぇ、君、名前は?」
少しピクッと反応した彼女だったがすぐに、名前はないと答える。
名前が、ない………?
目線を下に落としながら、寂しそうに笑って、まだ『名無し』だと言う彼女。
何故、名前がないのかよくわからなかったが、
名前を付ければいいと提案をする。
すると、すごく驚いた表情で見上げられた。
そしてすぐに、困惑した表情に切り替わった。
「ずっと君のままじゃ、呼びづらい…」
半分本音、半分は彼女を名前で呼んでみたくなったから。
「で、でもどんな名前にしたら………」
悩んでしまった彼女を見ながら、先程の木の幹に手を当て目を閉じていた彼女がふと脳裏に過る。
さくら
無意識に口に出てしまっていたみたいだ。
驚く彼女。
…あっという間に散ってしまう儚い桜と、彼女の儚げな存在がすごく似てる。
「『さくら』って名前がいいと思う」
そう伝えると、「さくら…」と反復する彼女。
そして、柔らかい笑みを浮かべながら、桜色に頬を染めていた。