白い羽根とシャッター音
サァと丘に優しい風が吹き、桜の花びらをひらひらと散らす。
彼女と一緒に見ることは叶わなかったけど、写真へとおさめていく。
もしも、いつかまた出会うことができたなら、今度はしっかりと彼女を写真に撮りたい。
一瞬一瞬を見逃さず、最高のシャッターチャンスを狙う。
「そろそろ、いっか…」
桜の写真を何枚か撮り、マンションへと戻ろうとした時、
「あの……もしかして、写真家の飯塚叶多さんですか?」
背後からそんな声をかけられ、振り返るとそこには、長い黒髪を風に揺らし、柔らかく微笑む女性がいた。
コクリと頷き、その女性をじっと見つめる。
「あ、す、すみません…!私、飯塚さんの写真の大ファンでして!その、良かったらサインをください!」
顔を赤くし、頭を下げた女性の手には、以前個展を開催した時に、販売した写真集があった。
それも、あの桜の木の写真のページを開いて持っていた。
「実は、この写真に写ってる桜の木がここの桜の木だって知って、見に来てたんです。そしたら、飯塚さんを見付けて!図々しいとはわかっているんですが…っ!」
女性の言葉の途中で、その写真集を自分の手に取り、胸のポケットからペンを取り出す。
女性は目に見てわかるくらいに、パァっと明るい笑顔になる。
表情豊かな人だな…なんて思う。
「君の名前は?」
「あ!はい、えっと、私の名前は…………」