白い羽根とシャッター音
「おりるーーっ!」
とばたばたとし始めたさくらを、下ろしてあげると、
「さくらさんー!」
と叫びながら、桜の木へと走っていった。
背後で、彼女が「走らないの!」と言っているのが聞こえてくる。
「パパーーー」
桜の木に手をつき、逆の手で手招きをする。
「今、行くよ」と伝え、
一歩踏み出したその時、
ふわりと1枚の白い羽根が視界を横切った。
その瞬間、桜の木に立っているのが、さくらではなく、『さくら』に見えた。その背にあの白い羽根を背負って。
『さくら』は、俺に向かって微笑みかけ、くるっと1回転する。
シ ャ ッ タ ー チ ャ ン ス
と口パクで言っているのがわかり、
茫然としてしまっていた俺は慌ててシャッターをきる。
写真に撮った瞬間、再びその姿は小さなさくらへと戻っていた。
「………さくら」
やっと、君を写真に撮れたよ。
「パパーー!」
いつまでたっても来てくれない俺に、さくらはむぅとした表情で再び大きな声で呼んでくる。
ハッと我に返り、桜の木の元へと走る。
「パパ!かたぐるまー」
と地面をぴょんぴょん跳ねるさくらを、抱き上げ、肩に乗せる。
「きゃーーーー」と嬉しそうに頭上で叫ぶさくらの声が聞こえる。
これからも、ずっと君を写真に撮っていくよ。
君が大きくなった時、満足してくれるように、
たくさんのシャッターをきっていく。
約束するよ。
白い羽根とシャッター音 終