打ち上げ花火とミルクティ
璃梨は走り疲れ、夜の繁華街をふらふらと彷徨っていた。



学校では、絶対に行ってはいけないと念を押されている場所。



何故ここに来たのはわからない。



ただなんとなく辿り着いたのだった。



ラブホテル『PEACH』、ファッションヘルス『青い真珠』、ホストクラブ『K』、ライブハウス『クラッシュガン』、大人の玩具館、DVD試写室。



辺りを見渡せば、ネオン、ネオン、ネオン。



夜だというのに、昼間の様に明るい。というより、この場所に限っては昼間より賑やかで明るい気がする。



道路にはタバコの吸い殻や乾いた吐瀉物、風俗店の宣伝広告なんかでこれでもかというほど汚れている。



綺麗な場所の方が少ないくらいだ。



何故か、生臭い。



魚屋なんてないのに。



璃梨の隣を通り過ぎる人間たちは、その光景を当たり前のように感じているのだろう。



みんながみんな楽しそうに笑っている。



それが本心かどうかなんて、もちろんわからない。



関係のない事だ。



別にわからなくても損はない。



勢いで飛び出して来ていたので、璃梨はまだ制服を着たままだった。



だけど、制服姿の人間は璃梨だけだはない。



イメクラ『桃色学園』。



真っ黄色の看板に真っ赤な文字でそう書いてある。



『桃色学園』という名なのだから桃色にすればいいのに。



目がチカチカする。



その店の外では、明らかに十代ではないような女がセーラー服やブレザーに身を包んで笑顔で客寄せをしていた。



女の一人が璃梨に目を向けた。



だが、一瞬見ただけですぐに何事もなかったかのように客寄せを再開した。



彼女たちにしてみれば、璃梨のような人間がこの辺を彷徨っている光景もまた、当たり前の事なのかもしれない。



もしかすると、彼女たち自身もそうであったのだろうか。
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