打ち上げ花火とミルクティ
「・・・何なんでしょうね。僕にもよくわかりません。実は、先生もよくわかってないんですよ。病気になってからもう何年も経ってるのに、研究が進まないみたいなんです」




恵斗は自分で言った言葉に苦笑した。



本当に、俺の病気は何なんだろう。



症状はわかっているが、目に見えて進行するものでもない。



俺は一体、何なんだろう。



「そうかい。あたしはね、ここに腫瘍があるんだって」



老婦人はある部位を指さしながら言った。



この場所にいるという事はその部位に何かしらの問題があるに違いないのだが、恵斗は何も言わなかった。



「そうですか・・・。手術、なさるんですか?」


「出来ないんだって。どう頑張っても、取り除けない場所にあるらしい」



老婦人は少し笑った。


あぁ、この人はもう覚悟が出来ているんだ。



恵斗はそう思い、複雑な気持ちになった。



「でもね、もういいんだよ。あたしは充分生きた。だから、本当は入院した方がいいんだけど、好きなように生活したいからって先生に無理矢理頼み込んで通院という形にしてもらったんだ。少々生活しにくい事もあるけど、好きな時に孫に会ったり編み物なんかをしながら死にたいと思ってね」



老婦人は上を向きながら話した。



孫の顔でも思い出しているのかもしれない。



この人は、とても幸せな人生を送って来たんだな。



恵斗はそう思いながら老婦人と同じように上を向いた。
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