北の魔獣
しかし、当時の兵吉は非常に悪名高い男であり、頻繁に深酒をしては喧嘩騒ぎを起こし、警察の世話になっていた粗暴な男であった。

その為、討伐隊の一員として山本に応援を依頼する事は三毛別村・六線沢村兼任村長である大川 与三吉(おおかわ よさきち)のほぼ独断で決定されたという。

山道を進む討伐隊とは別行動をとる山本。

と。

「む…」

ふと立ち止まる。

「……」

目を細めてある樹上を凝視する山本。

…ヒグマはミズナラの木に摑まり、体を休めていた。

その意識は麓を登る討伐隊に向けられ、風下から気配を殺して近づく山本の存在には全く気づいていない。

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