時の彼方に君がいた
「水野こそ、大丈夫なの。たしかバスケ部だっけ。運動部ってそういうの厳しそうだけど」


「うーん、まぁ、なんとかなるだろ。俺も一応伝えとくよう、言っといたし」


水野はやっと水野っぽいいたずらっ子のような顔で笑うと、


再びすぅっと表情をひっこめた。


「……朝、ごめんな。びっくりしたよな……最低だって思ったよな」


水野の瞳が潤んでいるように見えて


なんとなくいたたまれなくなり


僕は視線を水野からはずして尋ねた。


「……そんなふうにゆうってことは…水野って、その、やっぱり……二股?」


土曜日の女の子と水野は手を繋いでいた。


恋人にしか見えなかった。


しかし、小雪は水野と付き合っていると言っている。


「……土曜日の女の子とはその日に別れて、日曜日に小雪と付き合うことになったんではなく?」


「ははっ、やっぱ藤音って面白いな。そんな早技、俺出来ないよ」


乾いた笑い声に僕の胸はずきりと痛んだが、軽い調子で返した。


「水野だったら出来そうだもの。水野が女の子に人気なのは、誰だって知ってることだよ」


水野がまた笑う。


心底痛そうに。


「藤音、俺、二股してるんじゃないんだ」


僕が再び視線をうつしかえた先には


寂しげな笑みがあった。


綺麗な顔、とぼんやり思う。


「もっと悪いんだよ、俺…おかしいんだよ」


「……おかしいの」


我ながらまぬけな切り返しだ。


「うん、あのさ…聞いたら引くかも……いや、もう引いてるかもしれないけど」
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