時の彼方に君がいた
子どものように口を曲げ


必死に涙をこらえるような表情に


僕は何も言えなかった。


僕の様子を見て苦笑いしながらも


水野は『相談事』とやらを話し始めた。


「俺さ…女の子大好きなんだよね」


「……は?」


桃色の唇からこぼれた


今までの深刻な様子からは想像のつかない軽い台詞に、


僕は思わず疑問符をあげた。


「そんな顔すると思った」


水野は少し愉快げに口の端をあげ、



僕にかまわずたんたんと話し始めた。



「ちょっとだけ、昔話するね。


俺の悩みがはじまったのは中一の時。


いっこ上の先輩に告白されて、付き合うことになったんだ。


一緒にいればいるほどどんどん好きになってさ、毎日楽しかった。


でも……」


水野の顔に自嘲の色が浮かぶ。


「同級生の女の子に告白されて、ゆらいだ。


先輩のこと、あんなに好きだったはずなのに。


そのときはさ、ちゃんと付き合ってる人がいるから無理って断ったんだ。


でも日がたってもその子が告白してくれた時の顔とか忘れられなくて…そわそわして、


その子に自分の方から付き合ってって言いに行ったんだ。


先輩とも付き合ってたのに。


その時先輩とも別れなきゃって思ったんだ。


でもできなかった、だって」


水野は自分の体を抱きかかえるように腕をまわすと、


シャツの袖をぎゅっと掴んだ。


「先輩のことも好きだったから」
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