時の彼方に君がいた
水野は結局、二人の女の子と同時に


付き合うことになった。


でも二人にはすぐばれて、


どちらとも別れることになったらしい。


中学校には二股の噂が流れて


それ以来、女子が近づいてくることはあまりなくなった。


水野はそのことに安心していたらしい。


自分の自制心のなさが嫌というほど分かってしまったから。


しかし、中学を卒業し高校に入ると


水野の噂を知る者がいなくなった。


「家、遠いの?」


「うん、電車けっこう乗るかな」


高校に入ると、友達との付き合いもあり


世界が広がった。


しかし、自分自身はなに一つ成長していないことは


すぐにわかったらしい。


「告白されると、好きになってしまう。
断ろうと思っても、胸がきゅーって痛くなって、断ったらこの子、俺から離れんだろなって思うと泣きそうになって、で、だめ。」


「それが何人も?」


「うん」


「今何人と付き合ってるの?」


水野はうつむいて、ややぶっきらぼうに言った。


「わかんない」


「…は?」


「だからぁ、わかんないんだよ。俺の噂、高校でもじわじわ広がってて、知ってる人は知ってるんだ。それでもいっかぁっていう適当な人に告白されることの方が多くなって、付き合ってんのか付き合ってないのかよくわかんない人が何人か」


その、それでもいっかぁって人にも、水野は惚れるのだろうか。


僕は何と返してよいのか分からず


黙り込んだ。


水野の深刻でまぬけで突拍子のない悩みに対して、


まず浮かんだのはあきれ、だった。


病気かよ、と突っ込みたくなったのは言うまでもない。


次に脳みそにおしよせたのは冷ややかな怒り。


このことを知れば


間違いなく小雪は傷つく。


しっかり者の小雪のことだから


誰かに涙を見せたりはしないだろうが


心の底では誰より傷つく。


僕の中には、確かに中学時代から知っている小雪に対する情というものがあった。


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