時の彼方に君がいた
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♤♧


家に帰り、誰もいないことを確認した僕は、


居間のソファにストンっと体をしずめた。


疲れていた。


水野の頭の痛い話に


少なからずダメージを受けてしまったようだ。


『……ねぇ、小雪に言うでしょ、

水野くんのこと』


しかし、内に引っ込んでいたやつは


そうでもないらしく


相変わらず人の気に障る調子で


話しかけてくる。


「うるさいな、言わないよ。

水野が悲しむだろ」


やつが息をのむのがわかる。


やや怒気をふくんだ返事が返ってきた。


『そんな……なんで

小雪が心配じゃないの?』


「そりゃ心配だよ。

でも知って傷つくのは小雪だ。

それこそ言わない方が良い」


『そんなわけない。

どっちにしろ傷つくなら、浅い傷の方が良い』


もっともな意見にぐっと詰まったが、


なんとか口をおしあげ、反論する。


「小雪だって心変わりするかもしれない。

心変わりした後に知れば、苦しんだりもしないだろ」


ぴたりと『声』が止む。


しかし、それは数秒のことで


本当に怒ったらしいやつは


ヒステリックに叫んだ。






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