時の彼方に君がいた
『小雪は友達でしょ⁈

水野くんはせいぜいたまに話したりするくらいの、ただのクラスメートじゃないっ』


この言葉に、僕は顔が青ざめるのを感じた。


怒りで指先が冷たくなる。


「……小雪はお前の友達であって僕の友達じゃないだろ。

……水野は友達だ、僕のな」


いったん言葉を切り、僕はさらに続けた。


傷つけてやりたくて。


心をえぐってやりたくて。


「だいたい、僕だのみじゃなきゃ学校にも行けないやつが、偉そうなこと言ってんじゃねぇよ‼」


誰もいない家に、僕の声だけが虚しく響く。


僕はもう一度、嘲るように言った。


「小雪に言いたいんなら、自分で言えば良いだろ。

自分で出てって、自分の言葉で。

まぁ、どうせ、臆病な『翼ちゃん』にはできないだろうけどな」


「…………翼?」


突然聴こえた、そこにはいないと思っていた人の声に、僕はびくりと身をすくませた。


居間の開け放たれたドアの前に、困惑顔の霖が立っていた。


「どうした?大きな声だすから玄関まで聴こえてたぞ」


「……霖、塾は?」


「今日は休塾日」


僕は突然あらわれた兄に狼狽して、おろおろと視線を彷徨わせた。


『……海、海、私に代わって』


何のフォローもできない僕を見兼ねてか、やつが表面に浮かんでくる。


僕はさからうことも出来ず、身を任せた。


「あのね、さっきのは今はまってる漫画のセリフなの。

学校で誰がはまり役か競争してんだ」


翼が霖に向かってにこっと笑う。


その言葉に安心したらしい霖は、なんだそれ、と笑いかえした。


「……よかった。俺、てっきり…」


何か言いかけ、申し訳なさそうに顔を伏せた霖に、やつは優しい笑みを向けた。


「大丈夫だよ、もう変なこと言ったりしないよ。ちゃんと分かってるもん」


「……そっか」


そうだよな、と照れたように笑う霖。


そっか、そうだよな。


ちゃんと分かってるよな。


………海はもう、この世にはいないって。


心の中で、そう続けてるんだろ、霖?


笑いあう二人に、僕の心は


久しぶりに痛い、苦しい、と悲鳴をあげていた。
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