box of chocolates
『結ばれたい』
 自分が言い出したことなのに、小さなホテルの一室でふたりきりになると、恥ずかしくてたまらなかった。私は、大きな鏡に自分の姿を映した。真っ直ぐに貴大くんを見ることができなかった。
「杏ちゃん」
「なんだか恥ずかしくて」
 鏡に映る貴大くんに話しかけた。
「そっか。オレも、さっきからドキドキが止まらないよ」
 そう言う貴大くんは、顔を紅潮させていた。
「手を繋いだり、キスはしたけれど、抱きしめられたこと、ないんだよね」
 私が促すように言うと、後ろから私を抱きしめてくれた。微かに貴大くんの胸の鼓動を感じた。
「オレは、こうやっているだけでも充分、幸せだから。無理、しなくていいよ」
「無理してなんかいないよ」
 私は、貴大くんのほうに向き直って言った。
「やっとこっちを向いてくれた」
 優しい微笑みに、足元から崩れ落ちそうになった。私、貴大くんが好きでたまらない。



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