box of chocolates
23歳の誕生日
 貴大くんと別れてから、競馬を観なくなった。定休日には、ひとりでいろんな店を巡り、洋菓子を食べた。でも、チョコレートが食べられなくなった。うちの看板商品であるガトーショコラさえも、食べられなくなった。チョコレート菓子を目にすると、チョコレートが大好きな貴大くんを思い出し、胸が苦しくなるのだ。パティシエなのにチョコレートが食べられないなんて。でも、きっと時が解決してくれると思っていた。

 そんな中、二十三歳の誕生日を迎えた。両親が私のために、誕生日パーティーを開いてくれることになった。
「もう誕生日会をしてもらう年でもないよ」
「お父さんが、ね、杏にプレゼントしたいものがあるんだって」
 母とは以前と変わらず仲良くしているけれど、父とはあれ以来、仕事絡みの会話以外はほとんどしていない。プレゼントしたいものって、何だろう。父がくれそうなものが思い浮かばなかった。
母は忙しい中、私のためにごちそうを作ってくれた。両親が私のためを思ってしてくれているのは、わかっている。だけど、私が欲しいものはひとつだけだった。

そう。
たったひとつだけ。







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