box of chocolates
「あの、私…」
 動揺して、視線があちらこちらにとんでしまう。その視線を捕まえるかのように、八潮さんが私をみつめた。
「もしかして、あの夜、初めてのキスだった?」
 全身が火照った。コクンと頷くと、またぐっと抱きしめられた。
「大事にするから、心配しないで…」
「怖い…」
「怖い?」
「八潮さんみたいな素敵な人が、どうして私なんかを…。だから、怖いんです」
 ずっと思っていたことを口にした。
「自分に自信を持ちなよ、杏。キミは、とてもかわいいから」
「八潮さんを、信じてもいいですか?」
 八潮さんは、返事の代わりにキスをした。濃厚なキスではなく、唇にそっと触れるような、優しいキスだった。

『八潮浩輝には気をつけたほうがいい』

 その優しいキスは、兄の忠告を忘れさせるものだった。
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