box of chocolates

フランス修行

　七月になり、私は出国した。海外に行くのは、高校の卒業旅行で香港に行ったきり。しかも、今回は、初めてのフランスひとり旅だ。成田空港から約十二時間のフライトを終え、シャルル・ド・ゴール空港に到着した。とにかく広い。空港を抜け出して、無事にたどり着けるか心配になるくらい広い。シャルル・ド・ゴール空港からＲＥＲのＢ線でＬｅｓＨａｌｌｅｓ（レ・アール）まで。
ＬｅｓＨａｌｌｅｓで降りたらＭｅｔｒｏ（メトロ＝地下鉄）の一番線に乗り換えてＳａｉｎｔＰａｕｌ（サンポール）駅で降りる。スリには要注意！　ドキドキしながら、メモを頼りに歩いた。

　無事に到着すると、店のホームページの写真を頼りに、日本人夫婦の姿を探した。ご主人は、ふち無しメガネで白髪混じり。奥様は、長い髪を束ねた、スレンダーな方だ。荷物を抱えた私と、それらしきご主人の目が、バッチリと合った。
「川越杏さんだね？」
「はいっ」
「はじめまして。桶川です。長旅、お疲れ様」
「よろしくお願いします！」
　緊張しながら深々と頭を下げる。
「さぁ、今日はまっすぐ家に帰ってゆっくりしましょう。観光は、また後日にでも」
　奥様が私を気遣ってそう言った。気遣いはありがたいけれど、フランス菓子の修行に来たから、ゆっくり観光するつもりはなかった。