box of chocolates
飛躍
「お父さん、話したいことがあるんだけれど」
 五月に入り、私は父に切り出した。母がコーヒーをいれてくれた。私は、コーヒーカップに視線を落とした。
「貴大くんが今年もダービーに出られそうなの」
「そうか」
 コーヒーをひと口飲んで、父の視線を捉えた。
「もし、ダービーを勝てば、貴大くんとの交際を認めてください」
 お互いに視線を合わせたまま、しばらくの間、沈黙が続いた。
「ダービーの日は、店を閉めて観に行こう」
 父はそう言うと、席を立った。私は、その後ろ姿を見送って、ため息をついた。それは、落胆のため息ではない。ふたりの輝く未来を思った、温かなため息だった。
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