box of chocolates
 ゲートは、私たちのいる位置からは遥か遠く、ターフビジョンで確認をする。スタートは、ほぼ互角。芦毛のスノードロップは目立つ。三〜四番手を追走しているのがわかった。とくに引っ張っていく逃げ馬もなく、レースはスローペースのようだ。四コーナーを曲がるあたりでは、先頭から後続まで、ほとんど差がなく、だんご状態でカーブを曲がり、いよいよ最後の直線。

 馬は背中に、騎手を乗せているだけではない。生産者、馬主、厩務員、その他たくさんの関係者、ファン……。それぞれの思いを乗せ、それぞれが思い思いに叫ぶ。その思いを受け止めるかのように、馬はゴールを目指す。混戦の中、残り二百メートルで三頭が抜け出した。そのうちの一頭は、よく目立つ芦毛の馬体、スノードロップだ。残り百メートルでも横一線になり、激しい叩き合いは続いた。三頭は、なだれこむようにして並んだまま、ゴール板を駆け抜けた。

 場内は、ざわめいていた。どの馬が勝ったのか、すぐに判断がつかなかった。ゴール前の首の上げ下げが、勝敗の決め手となりそうだ。

 しばらくすると電光掲示板の一着のところに1が光った。ニ着に9。『確』が光り、着順が確定した。昨年は、涙を飲んだ。でも、今年は違う。
記念に買った単勝馬券を確認する。一枠一番は、スノードロップだ。
「勝った……」
 私は、そう呟くのが精一杯だった。
「杏! 良かったね! おめでとう!」
 母さんがギュッと私を抱きしめた。それでも、実感がわかない。
「ホラ! 杏、貴大くんが来たよ!」
 芦毛の馬体を光らせたスノードロップに跨り、ウイニングランをする貴大くんの姿が見えた。観客から歓声と拍手が沸き起こった。鞍上の貴大くんは、天に届きそうなくらい手を伸ばして、人差し指を突き上げていた。そして、地下馬道に降りて行く前に、観客に深々と頭を下げて、去っていった。








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