box of chocolates
 その日から八潮さんは、自分の都合で夜な夜なこっそり私を連れ出しては、あの部屋で私を求めるようになった。私は、それを拒否できなくなっていた。断ったとしても言葉巧みに誘い、細い指先で私をその気にさせた。行為のあとは、いつも後悔していた。彼は、私を好きだと言ってくれていて、私も彼に好意を持っていた。相思相愛と言えばそうだけれど、気になることがあった。

 『好きだ』と言ってはくれている。だけど『付き合ってほしい』と言われたことがない。でも、肉体関係を持っている。暗黙の了解で、私は八潮さんの『彼女』だと、思いこんで良いのだろうか? 聞きたいけれど、それを口にすれば、八潮さんが離れていくような気がして、聞けなかった。まともなデートはしたことがなくて、あの部屋で抱き合っているだけ。本当は、セックスよりも、普通にデートをしたいのに。私は、八潮さんにとって何なのか。聞きたいけれど、聞けないまま、中途半端な関係が一年ほど続いた。
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