box of chocolates
「浩輝」
 軽く会釈をして八潮さんの元を離れると、私と入れ違うようにして、吉川さんがやってきた。閉店後、従業員が帰ってからこの店がどう利用されているかしらないけれど、なんとなく、あの枕についていた長い髪が吉川さんのもののように思えてならなかった。ニ人が親密な仲なのは、従業員同士の噂話からも想像ができた。吉川さんは仕事が終わると、彼を名前で呼んでいた。ニ人の交際は、今の私にはなんの関係もない。大人の男女が付き合っているんだから、不倫じゃない限り、やましいことはないのだ。

 でも、なんとなく気になった。自分から関係を絶っておいて、八潮さんのことが気になった。まだ私は、彼が好きなのかもしれない。
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