box of chocolates

夏から秋へ

夏は、ゼリーやプリンなどのひんやりとしたスイーツに加え、本店にはないシューアイスを販売した。それが大ヒットし、午前中で完売することも珍しくはなかった。パスタはニ種類をランチタイムだけの販売としていた。冷製パスタにひんやりスイーツのセットが売れ行き好調だった。

　波に乗った夏を過ぎ、さつまいも、栗、かぼちゃが主役の秋。中でも秋季限定のかぼちゃプリンは、本店の味を受け継ぎ、素材の味を生かしたシンプルなもの。さらに二号店では、オリジナルのかぼちゃプリンも販売した。

　店内もすっかり秋の装いで、ハロウィンの飾り付けが始まった十月。この店で働き始めてから、半年が過ぎた頃だった。
「お疲れ様です」
「お疲れ様。川越さん、ちょっと」
　帰り間際、私は、八潮さんに呼び止められた。
「もう半年になるけれど、仕事の悩みとか、問題点ってない？」
「特には。お気遣いありがとうございます」
　そういえば、夏にもそんなことを聞かれたな。そう思いながら、笑顔で応えた。
「そう。パティシエのサポートみたいな仕事ばっかり任せているけれど、そろそろケーキを作りたいって思わない？」
「それはありますが、先輩方のサポートも立派な仕事だと思っていますから」
「そうだね。また何かあったら」
「はい！　お先に失礼します」
　私なんかにも気を配ってくれる八潮さんに、好感を持たないほうがおかしいくらいだ。
「あっ、そうだ。ひとつ、言い忘れていたことがあったんだ」
　背を向けた私を八潮さんが呼び止めた。
「はい」
「十月三十一日に、ハロウィンパーティーがあるんだ」
「ハロウィンパーティーですか？　仮装して？」
「いやいや、そこまで大袈裟なもんじゃないよ。ハロウィンという名の懇親会だから」
　その日はたまたま定休日だった。八潮さんは、従業員のためにそこまで考えてくれているんだ。
「十九時にこの店に集合だから、忘れないように、ね？」
「わかりました！　楽しみにしています」
　八潮さんの心遣いが嬉しくて、つい笑みがこぼれた。ハロウィンパーティーかぁ。かぼちゃプリン、食べさせてもらえるのかな？　ワクワクしながら、店を後にした。