box of chocolates
出逢い
寒い冬を越え、日に日に陽射しが暖かくなり、チラホラと桜が咲き始めた、三月の終わりの月曜日。バーベキューに行くため、朝から駅前のロータリーにいた。
「杏ちゃん」
 車の助手席の窓を開けて、とわさんが手を振った。私は小走りで駆け寄り、車に乗ろうとした。後部座席に見たことのない男性が座っているのが見えて、戸惑った。
「お待たせ! さぁ、乗って?」
 とわさんに促され、ドアを開けると男性が挨拶をしてくれた。とりあえず挨拶を返し、隣に座った。
「彼は、戸田くん。JRAの騎手なんだよ」
 助手席から身を乗り出すようにして、とわさんが私に言った。チラリと視線を送ると、バッチリと目が合った。
「はじめまして。戸田貴大です」
「はじめまして。川越杏です。兄がいつもお世話になって……」
 そこまで言って、おかしなことに気が付いた。兄は、地方競馬の騎手。戸田さんは、中央競馬の騎手。接点はあるのだろうか。
「戸田くんとは時々、地方交流戦で会って。話をしているうちに意気投合したんだよ」
 私の心を見透かしたかのように、兄が運転席から言った。
「戸田くんは、見た目と違ってしっかりしたいい男だよ」
「川越さん、何を……」
 戸田さんが照れくさいのか、苦笑いを浮かべた。見た目はたしかに、子どもっぽい。小柄なベビーフェイス。私より年下なのか、年上なのか。年齢不詳だ。

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