box of chocolates
 肉を堪能した後は、ピクニックシートの上にお菓子や飲み物を用意しておしゃべり。
「これ、食べてもいいですか?」
 私が持ってきた店の焼き菓子を見て、戸田さんが遠慮がちに聞いた。
「どうぞ。美味しかったら、ぜひお店に来てください」
「杏、営業上手だね」
 兄につっこまれ笑って見せると、戸田さんも笑顔を見せた。かわいらしい、子どものような笑顔だ。うちの焼き菓子を「おいしい」と言ってくれて、素直に嬉しかった。
「美味しかった。ごちそうさま」
 戸田さんはそう言うと、急にゴロンと寝転んだ。目を閉じたかと思うと、すぅすぅと寝息をたてはじめた。
「杏、睡眠薬を入れて、戸田くんをお持ち帰りする気か?」
 兄にそう言われ、ブンブンと首を振った。そもそも三人でのバーベキューだとばかり思っていたのだから、そんなことをするはずがない。
「戸田くん、大仕事をやり遂げて、疲れているのかもしれないね」
 兄が騎手でも、私は全く競馬に興味がない。大仕事って、何のことだろうか。私にはわからないけれど、特に質問をするほど気になるものでもなかった。



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