box of chocolates
「戸田くん、そろそろ帰るよ!」
兄にペチペチと顔を叩かれ、戸田さんがむくっと起き上がった。
「もう帰るんですか?」
「戸田くん、食べ過ぎのうえに寝過ぎ」
後片付けもすっかり終わり、あとは、自分が寝ているシートを片付けるだけになっていて、慌てて靴を履いた。
「すみません、寝過ぎですね。片付け、ありがとうございました」
「それだけ寝たら帰りに居眠り運転しないだろ?よろしく」
兄が笑いながら車のキーを手渡した。運転できるのは、酒を飲んでいない私か戸田さんしかいなかった。
「杏、助手席に座ってやって? 何かあった時に運転を替われるよう」
私は、兄の指示通り、助手席に座った。戸田さんは、みんなで話をしている時も、食べる口ばかりが動いていて、口下手な感じがした。逆に私は、無言という重圧には耐えられないタイプだから。
「昨日、大仕事をやり遂げたって?」
ちょうどいいネタを思いつき、質問した。
「大仕事? ああ。負傷した先輩の替わりにレースに出たんです」
「そうなんですね。私、競馬はよく知らないんです」
騎手の人と話をしているのに申し訳ないなと思いながら、素直に言った。
「お兄さんが騎手でも、競馬は観に行かないんですか?」
「茨城からわざわざ大井競馬場まで、行かないですね」
「そうですか。そんな人こそ、ぜひ競馬場に足を運んで生で競馬を楽しんでいただきたい」
その後も、戸田さんは競馬の話ばかり。よっぽどこの仕事が天職なんだと思った。
帰り間際になり、戸田さんが名刺をくれた。
「写真入りの名刺、なんですね」
「自分を覚えてもらって仕事の機会を増やすため、です」
ただ、名刺をもらっただけ。特に『連絡を下さい』とも言われず、私も『連絡をします』とも言わず、そのまま別れた。
兄にペチペチと顔を叩かれ、戸田さんがむくっと起き上がった。
「もう帰るんですか?」
「戸田くん、食べ過ぎのうえに寝過ぎ」
後片付けもすっかり終わり、あとは、自分が寝ているシートを片付けるだけになっていて、慌てて靴を履いた。
「すみません、寝過ぎですね。片付け、ありがとうございました」
「それだけ寝たら帰りに居眠り運転しないだろ?よろしく」
兄が笑いながら車のキーを手渡した。運転できるのは、酒を飲んでいない私か戸田さんしかいなかった。
「杏、助手席に座ってやって? 何かあった時に運転を替われるよう」
私は、兄の指示通り、助手席に座った。戸田さんは、みんなで話をしている時も、食べる口ばかりが動いていて、口下手な感じがした。逆に私は、無言という重圧には耐えられないタイプだから。
「昨日、大仕事をやり遂げたって?」
ちょうどいいネタを思いつき、質問した。
「大仕事? ああ。負傷した先輩の替わりにレースに出たんです」
「そうなんですね。私、競馬はよく知らないんです」
騎手の人と話をしているのに申し訳ないなと思いながら、素直に言った。
「お兄さんが騎手でも、競馬は観に行かないんですか?」
「茨城からわざわざ大井競馬場まで、行かないですね」
「そうですか。そんな人こそ、ぜひ競馬場に足を運んで生で競馬を楽しんでいただきたい」
その後も、戸田さんは競馬の話ばかり。よっぽどこの仕事が天職なんだと思った。
帰り間際になり、戸田さんが名刺をくれた。
「写真入りの名刺、なんですね」
「自分を覚えてもらって仕事の機会を増やすため、です」
ただ、名刺をもらっただけ。特に『連絡を下さい』とも言われず、私も『連絡をします』とも言わず、そのまま別れた。