box of chocolates
 そんな高校生に見える戸田さんと、大井競馬場へやってきた。
「帝王賞は地方交流戦だから、中央競馬所属の馬も五頭ほど出てくるんだよね。もうちょっと前で観ようか?」
 まもなくレースが始まる。馬たちが順番にゲート内に収まった。
「お兄ちゃん、勝つかな?」
 今日は、私の誕生日。プレゼントはいらないから、兄がいちばんにゴール板を駆け抜けるところが観たいと思っていた。兄が騎乗している馬は、内枠だったこともあり、ロスなく内を通って、三番手を走っていた。

 どこからともなく声があがる。突然、馬が前脚から崩れ落ちるかのようにして転倒した。ほんの一瞬の出来事。何が起こったのかわからない。わからないけれど、兄が落馬して、倒れているのはわかった。私は声も出せず、ただただ恐怖で震えていた。
「大井の厩務員に知り合いがいるから、様子を聞きに行こう」
 戸田さんは冷静にそう言うと、震える私の手を強く握り、歩き始めた。私は、俯いたまま黙って戸田さんに連れられて歩いていたが、競馬場内は騒然としていた。
< 60 / 184 >

この作品をシェア

pagetop