box of chocolates
「こんばんは」

 今夜の八潮さんも、彼の最大の武器で私をカチンコチンに凍らせる。外は寒いのに、身体が熱く感じた。
「寒いから、車に入ってよ」
 私は、言われるがまま、助手席に座った。ふたりっきりが恥ずかしくて俯いた。胸の鼓動が助手席まで聞こえるんじゃないかと思うくらい、ドキドキとしていた。
「寒いから車に乗せただけで、連れ去ったりしないから、ご心配なく」
 俯いた視線を、ゆっくりと八潮さんに向ける。
「急に会いたくなって」
「……誰に?」
 私の問いがよっぽどおかしかったのだろう。歯並びの良い白い歯を見せながら、笑った。
「ここには、杏ちゃんしかいないだろ?」
 八潮さんが、私に会いたくてわざわざやってくるなんて、信じられるはずがなかった。
「ふたりっきり、だね」
 ぼんやりとしている間に、八潮さんとの距離がいっきに縮まっていた。息がかかるくらいすぐそばにいて、どうしたらいいのかわからない私の心と唇を、八潮さんは一瞬にして奪った。




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