box of chocolates
牛丼ランチ
 貴大くんと付き合い始めてから、週末はワクワクしていた。今週は、貴大くんがどんなレースに出て、何鞍騎乗するのか。ライバル関係はどうか。人気はあるのか、ないのか。兄が騎手といえども、競馬に関して全くの素人だった私が、いろんな知識を得て、競馬の奥深さにはまり、スポーツとして楽しむようになっていた。でも、今週は、全く競馬情報をチェックしていなかった。チェックする心の余裕がなかった。
「こんにちは」
 八潮さんがやってきた。いつも昼の少し前にきて、打ち合わせを済ませて、店番をして、私とランチに行く。それが日課のようになっていた。今日もやっぱり、ふたりでランチに出かけた。
「月曜日、ミユキヒルメのレースを観に行ってくるよ」
 牛丼屋のカウンター席に座って、聞いてもいないのに八潮さんからの報告をうけた。
「そうですか」
 私は、興味なさげに返事をした。
「ずいぶんと冷たい返事だね。彼氏が出るというのに」
「ミユキヒルメはライバルですから」
「あ、やっぱり戸田さんから聞いていたんだ? 乗り替わりのこと」
「ええ。昔の不倫話が御幸さんの耳に入って怒らせたみたいですね。誰がばらしたんでしょうね」
 私は、牛丼の具を箸で挟んだまま、まくるように話した。
「な、何? もしかしてオレを疑ってる?」
「そんなこと、言っていません」
 それだけ言うと、黙々と箸を進めた。牛丼もカツ丼も天丼も、今の私には同じ味にしか感じない。何を食べても美味しく感じなくて、食欲も沸かない。









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