お伽噺を紡ぐふたり
男たちの怒号のような欲望に満ちた脂っこい声が少女自身の値をつり上げていく。

国の法律で認められた団体以外は人間は勿論のこと、例え家畜であっても勝手な売買は許されない、が、そんな事を気にする者はいない。名の知れた国の中枢を担う人間ですら、ここを見に来る。統制のためではなく、自身の欲望の掃き溜め場所を見つけるために。

「150万フランで打ちきりにさせていただきます!」

男の声が楽しそうに華やぐ。買い取った男がにやにやとだらしなく口の端をゆるめ、少女に近づく。

「夜を楽しみにしているよ」

直接的な合図に少女は吐きそうになる。諦める事は得意のはずなのに、あの気持ち悪さをもう一度体感するのかと思うと、消えてしまいたくなる。

誰か助けて欲しい、そんな馬鹿みたいな願いがゆっくりと点滅した。

「お前の価値はそれでいいのか?逃げたくはないのか?」

ビロードを被った男が少女の手を掴んだ。なんなんだ、お前は、と奴隷売りの男と買手の男が声を張り上げる。
少女は震えながら、逃げれないですもの、と呟いた。

「俺ならお前を逃がすことが出来る、逃げる」
「…いきたいです」


少女のその言葉を待ち望んでいたかのようにビロードの男は幸せそうに少女を抱えあげた。周りの歓声が強くなる。次に気付いたとき、少女が立っていた地面は遠くなっていた。彼は少女を抱きながら空を飛んでいた。
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