お伽噺を紡ぐふたり
椅子に腰掛け、キースはぼんやりと考えていた。店内の懐かしいクラシックの曲が耳にゆったりとはいる。この国にリベルテのような奴隷身分がどれだけいるか、そして、この行動が偽善と呼ばれるものであることぐらいわかっている。

キースは小さくため息をつく。一目見たとき、そんなお伽噺のような事が自分の身に起こるなどとは思っていなかった。

リベルテの美しさに目を奪われたことは紛れもない事実だった。だから、彼女を醜い欲から遠く離れた場所へ逃がそうと思った。
けれど、
ー不思議なことに、彼女は僕を選んだ。

半獣の彼女は、居て欲しいと願った。今思えば、とキースは深くため息をつく。無理だ、と拒否すればいい話だったのだ。

やらなくてはいけないことが山積みにも関わらず、何故自分から増やしているのか、そんなにお人好しではなかった筈だが。

いっそ山道にでも置いていこうか、そんな最低な考えが頭を過る。けれど、実行に移す事が出来ないのは彼女に心をおいてしまっていることを認めざる得ない。

マダムリリーがカーテンを引き上げた。出てきた彼女にもう一度目を奪われた。

ー…
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