愛したがりのカラダがね…、《Berry's Cafe限定》-【完】
ポカンとしてる私の胸の名札を指差し「またね、北沢さん」そう言って靴音を響かせながら銀行を出て行く新川さん。
爽やか過ぎだ…あんな人を、大人の男性って言うんだろうな…
私は暫くの間、彼の姿が見えなくなった銀行の出入り口をボンヤリ眺めていた。
―――次の日
また、あの新川さんが銀行に現れた。昨日と同じ五千円を下ろす。
そして、次の日も、また次の日も彼は銀行に来た…
「あの…新川様、小額の出金でしたらキャッシュコーナーをご利用された方が便利かと…」
遠慮気味に私が話し掛けると、彼は真顔で「それじゃ、意味ないよ」なんて言う。
「はぁ?意味が…ない?ですか?」
「俺は、意味ない事はしない主義だから…」
意味ない事って…?
「あの…失礼ですが…どんな意味があるのでしょうか?」
本当はお客様にこんな事聞いちゃいけないのかもしれないけど、つい聞いてしまった。するとその時、凄い勢いで駆け寄ってきた男性が新川さんの腕を掴んだんだ。
「これはこれは、新川様じゃありませんか!!ご用が御座いましたら、わざわざ足を運んで下さらなくても私どもがお伺い致しましたのに…」
新川さんに何度も頭を下げているのは、この本店の店長。
「あぁ、今日はプライベートですから…」
店長は新川さんの背中に手を当て、今度は小声で話し出す。
「先日の件ですが…ご検討頂けましたでしようか?」
「うん…あれねぇ…もう少し時間をくれないかな」
「それでしたら、今度、食事でもしながらゆっくりと…」
店長が余りにしつこく纏わりつくものだから、新川さんは迷惑そうに顔を顰め堪らず出口に向かって歩き出した。けど、そんな事、全く気付いていない店長は新川さんの後を追い銀行の外まで付いて行くと、深々と頭を下げ見送っている。
店長があそこまでするなんて、やっぱり新川さんて特別なお客様なんだ…