その手を天高く伸ばせば
「・・・・・」

トイレの個室からユウが出てきた。

「・・・・・・・・・・」

手を洗いながら鏡に映る自分を見詰める。

<・・・まだ来ないなぁ・・>


首を傾げ、唸りながらトイレを後にする。
廊下を歩きながら考え込んでいるユウに、サエが声をかけてきた。
「ねぇねぇ!聞いた?」

悪戯な笑顔でサエが聞く。

「え?何の事?」

すると、サエがユウに耳打ちした。

「受付の子、できちゃった結婚で今月いっぱいで寿退社するんだって!」

「できちゃった結婚!?」

ユウの声が裏返る。

「で・・できちゃった結婚て〜事は・・・その・・・・」

「まあ子供じゃないんだし?ヤル事ヤレば・・・そうなる事もあるでしょ」

人事だからかサエは、あっけらかんとした言い草でサラッと言いのけた。

「まあ・・・そりゃそうだけど・・・・」

笑う顔が強張ってしまう。サエが、ぎこちなく笑うユウに気付きジィーッと、ユウの顔を見詰めた。

「!・・・なに?サエちゃん、ワタシの顔じっと見たりしてぇ〜〜・・」

「・・・・・」

「・・・・サエちゃん?」

「まさかアンタもできちゃった結婚じゃないでしょうねぇ・・・・?」

疑う様に目を細めて腕を組み、ユウに詰め寄った。
ジリジリと詰め寄るサエに逃げ腰になりながらユウは答える。

「あははっ・・まっさか〜〜ナイナイできちゃった結婚なんて!あはははっ」

「アハハ!だよねぇ〜〜〜アンタたちまだ可愛い恋愛だもんねぇ〜〜〜ナイよねぇできちゃった結婚なんて〜アハハッ」

「あはははっ」

<できちゃった結婚はナイかもしれないけど、できちゃった・・はアルかもね・・・・>
二人の笑い声が会社の廊下に響き渡る。
その笑い声の中にユウの溜め息も混じる。

<・・・ワタシ・・できちゃった?・・・>
ドキドキドキ・・・ユウの鼓動が速くなる。
<ウソたよね?考え過ぎだよね??ね???>

サエと一緒に笑いながら、ユウのココロは半ベソ状態だ。

<うわぁ〜〜〜〜〜ん!!!サエちゃん笑えないよっ!今のワタシには!!!!>
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