その手を天高く伸ばせば
《バカたれ、大丈夫なワケないだろ
もう夜中だぞ!》

「だって、ケンチの家ってココ(会社)まで1時間くらいかかるじゃん・・・それなのに送ってなんて言えるワケないじゃん・・・」
少しスネながら呟く。また直ぐにメールが来た。

《バカ!夜道の一人で歩きは危ないだろ!!オレに連絡しろって言っただろ》

「だってぇ・・」

ケンチのメールに言い返す。
すると今度は電話が鳴った、もちろんケンチから。

『こらっ、なにフラフラ一人で歩いてんだよ!連絡しろって言っただろう?』

不機嫌そうな声だ。

「だって・・・ケンチの家遠いし、駅まで行けばタクシーがいるカモしれないし・・・」
『バカッそんなビクビク怯えてるくせに、一人で夜道歩いて大丈夫なワケないだろ!』

「えええ駅までだもん!ここらへんは街灯が少なくて暗いけど、駅の側まで行けば明るいし・・・・・?」

『だからそんな暗いトコ危ないだろ、素直に迎えに来てって言えばいいだろう・・・ユウは意地っ張りなんだから!』

「・・・え・・ケンチ・・・?今どこ?」

『振り返ってみな』

言われた通り振り返る。道路沿いのガードレールに腰掛けるケンチが軽く手を振っていた。

「ケンチ?!」

叫びながらユウはケンチに駆け寄る。
ユウが近付くとガードレールから立ち上がり笑った。

「ったく言う事聞かないヤツだなぁユウは・・・」

ポンポン!
ユウの頭を叩くとケンチはユウにヘルメットを手渡した。

「お疲れさん帰ろう?ユウ・・」

ケンチからヘルメットを受け取り、照れ臭そうにケンチの後をついてゆく。

近くに停めてあるバイクにケンチがまたがってエンジンをふかし始めた。

「ユウ帰ろう」

ヘルメットをかぶってケンチの後ろに乗り、力いっぱいケンチの背中にしがみつく。

ケンチはユウが自分に、つかまったのを体で感じると、アクセル全開でバイクを走らせた。

ケンチの背中にはユウの温もりが、ユウの体にはケンチの大きな背中から伝わるバイクの振動と、冷たい風が心地よく感じられた。

フルフェイスのヘルメットから、どんどん流れてゆく景色を眺めていたユウは、少しだけ目線を上げ空を見上げた。そこには、さっきケンチがメールで教えてくれた通り綺麗な三日月が空に
< 22 / 33 >

この作品をシェア

pagetop