その手を天高く伸ばせば
「・・・・ごめんなさい、好きなヒトが居るから・・・」

深々と頭を下げて丁重に断った。

「・・・ごめんなさい」

頭を下げたままもう一度。
男は「謝らないで」と笑い、走って去って行った。

「・・・・・・」

なんだか複雑な気分だった。好きなヒトが居るのは事実だし、片思いだとしても他の男から告白されても、付き合う気にはなれないのだから・・・
それでも去る直前の悲しそうな顔を見ると、やはり辛くなる。

「はぁ〜・・・」

足取り重く、その場から歩き出す。

「アキコ?」

ドキッ!

「あ・・ケンイチ」

教室を一人移動中のケンチが肩を落として歩くアキコを呼び止めた。

「お前ナニやってんだよ?こんな校舎裏で」
「・・・・・別にっ」
スタスタとケンチの前を目も合わせずに横切る。

「そう言えばさっき、お前と同じトコから男が出て来たみたいだけど・・・!もしかして告られてたとか?!」
冗談ぽくケンチが言った。アキコはケンチの言葉にピクリと反応する。

「・・・・・・・・」
「?・・・!マジ?!お前告白したの?!」
大きな声で尋ねるケンチについムキになり怒鳴って答える。

「告白なんかしてない!!!!ばかっ」

「何だよ怒んなよ・・・んじゃ告られてたんかよ?」

「・・・・・」

ウソがつけない・・・
「へぇ・・・モノ好きなヤツも居るもんだ・・・・」

独り言を漏らす。
けれどアキコの耳にはケンチの独り言がしっかり聞き取れた。

「うるさい!!!ばか!!」

アキコは急に走って向かいの校舎に消えた。
「・・・何だよ・・」
アキコに怒鳴られたワケも分からず、不愉快な気分になったままケンチはアキコとは反対の校舎へ歩き始めた。



校舎へ飛び込んだアキコはケンチからは見えない所まで走ると、壁にもたれてズルズルとしゃがみこんだ。
・・・ケンチが悪いワケじゃない・・・でも、あんなにも、告白された事をあっけらかんと、あっさりと言われた事が何だかとても悔しくて哀しかったのだ。アキコは感情のスイッチが壊れたみたいにコントロール出来なくなって、涙がなぜかボロボロボロボロ零(こぼ)れ落ちた。

「なんで?そんなに軽く言うの・・・アンタにとって・・ただの友達なの?アタシは」
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