疑惑のグロス
私は高校卒業後、地元では有名な食品会社に入社した。
新しい生活、新しい社会、そして自分も大人になったんだという実感をひしひしと感じる入社式。
自然と気合いが入った私は、猫背気味の背中をピーンと伸ばして、慣れないヒールで颯爽と歩いていた。
すでに気分は『デキるOL』。
黒いスーツの中に収まっている、白いシャツの襟の糊がきき過ぎていて恥ずかしい位だったけれど……デキるOLはやっぱり身なりも格好良くなくっちゃ。
コツコツと床を鳴らすヒールの音が、耳に心地よく入り、すっかりいい気分で歩いていた。
――バッターン!!
突然、私の視界が一気に1メートルほど低くなった。
えっ……!?
キョロキョロしながら周りを見渡し、やっと今の自分の状況を飲み込む。
――意識だけが遠い世界を歩いていたようで、足元のパイプ椅子に気付かず足を引っかけて転んでいたんだ……。