疑惑のグロス
給湯室の入り口付近に来たものの、今日はタバコの匂いはしてこなかった。
なあんだ。やっぱり会議か。
せっかくここまで来たからと、一応中を覗き見ると、シンク付近でちらばったインスタントコーヒーと、慌てる大塚の姿が見えた。
そして――その後ろに、タバコに火を付けたばかりの彼の姿も。
彼は大塚を見つめると、とても幸せそうな笑顔を浮かべた。
途中、何か言葉を掛けていたけど、ここまではやっぱり聞こえて来ない。
でも、今日は聞こえなくてもいらだつ気持ちは全く無かった。
良かった。
少なくとも、大塚にそっけなくはされていないみたいだ。
大塚に何か言った後、彼がこちらに向かってくるのに気付くと、慌ててドアと壁の隙間に隠れた。
彼が通り過ぎた後に、タバコの残り香がふわりと漂う。
それにつられるように、ドアの後ろから飛び出た瞬間、思いっきり何かにぶつかった。