疑惑のグロス

「痛っ!?」


思わず声を上げると、ぶつかったその相手が困ったような顔で慌てふためいていた。




「すみません……大丈夫ですか!?」


――大塚との初顔合わせだった。




つい数日前なら、私の目から火花もパチパチと出ていたかもしれない。


でも、今日はなんだか冷静だ。

というより、そんな気持ちが少しずつどこかへと飛んで行っているんだ。


間近で見た大塚の顔は、悔しいけどやっぱり整っている。

でも今日は、艶めくグロスは乗せられていなかった。


もしかして金曜のうちに噂が耳に入っちゃって、北野くんに責められてるのかな。


私には似合わない、罪悪感のようなものがじわじわと込み上げてきた。


「……すみません……」


ぶつかったことへのお詫びだったけど、それだけではない思いも入り交じる。


か細い声でつぶやくように言うと、私はその場から一目散に立ち去った。

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