疑惑のグロス
14:噂の人物
あれほど憎いと思っていた大塚に対して、たとえ少しでも心配をしたり、罪悪感を持ったりする私……何か変だ。
一体、どうしちゃったんだろう。
給湯室から逃げるように飛び出した私は、そのまま突き当たりの広報部へと立ち寄った。
「わざわざすみません。
私の押し間違いなのに来て頂いて」
事務の女の子は顔を赤くしながら、書類に押す印鑑を用意している。
「いいえ、別な用事もありましたから」
待つ間、暇な私は広報部の中を見渡した。
出払っているのか人は少なかったが、その中座る大柄な女の子が、嫌でも目に付く。
フィナンシェの包装紙を丁寧に開け、目を輝かせてまじまじと見つめている。
大きく口を開けてそれを一気に頬張ると、幸せそうな緩い顔を作った。
モグモグと口を動かしながら顔を上げたタイミングで、私と目が合った。
彼女は、あ、と一言発すると、席を立ち私のところへと駆け寄ってくる。