疑惑のグロス
「お礼に、あたしも仕入れたばかりのネタ、教えちゃいます」
間近で見た彼女の顔は、マスカラを何重にも重ねてところどころダマになった睫毛が、怖いくらいの迫力だった。
断る気持ちをもひるませる程の圧迫感に、さすがの私も立ちすくむ。
「コレ、まだ情報が少ないんですけど。
社内にものすごく松原さんを好きな追っかけの女の子がいるらしいんです」
更に顔を近づけてきた。
もはや恐怖だ。
白い丸々とした頬に、少し乗せすぎのチークは、おかめという言葉以外思い浮かばない。
――しかし、追っかけとは。
彼はやはり人気者なのだと、改めて思い知らされる。
私はたぶん、彼の恋人にはなれない。
でも、普通の知り合いよりも上の位置に存在しているという自信が出来た事で、幾分気持ちに余裕が生まれたのを感じ始めていた。