疑惑のグロス

たぶん、私だと正体がばれていないのは、存在が薄いせいだ。

こうして時々他の課へのお使いに行くことはあれど、これといって特徴が見られない私は、この会社の人間だと思って貰えることすら怪しい。


いつもなら、私の超のつくマイナス思考で、うじうじ文句をつぶやいているところだ。

でも今回ばかりは、存在が薄くて良かったと素直に思う。


もしも、私の名前付きで噂が上がったら……彼に迷惑がかかることになるもの。




「ふうん、そうなんだ。ありがとう。

また、詳しく解ったら教えてよ」

「なんだー、結構こんな話、お好きなんじゃないですか!

任せておいてください、一番にお知らせに行きますから」


嬉しそうな彼女の顔。

――もう、来なくていいったら。

それにもう、そのストーカーはきっと給湯室には現れないよ。

きっと……ね。




あの子と話しているとどうもパワーを吸われている気がしてならない。

ぐったりと、まるで全力疾走をした後のような疲労を覚える。


人事管理課までの距離がいつもより遠く感じた。

< 110 / 130 >

この作品をシェア

pagetop