疑惑のグロス
たぶん、私だと正体がばれていないのは、存在が薄いせいだ。
こうして時々他の課へのお使いに行くことはあれど、これといって特徴が見られない私は、この会社の人間だと思って貰えることすら怪しい。
いつもなら、私の超のつくマイナス思考で、うじうじ文句をつぶやいているところだ。
でも今回ばかりは、存在が薄くて良かったと素直に思う。
もしも、私の名前付きで噂が上がったら……彼に迷惑がかかることになるもの。
「ふうん、そうなんだ。ありがとう。
また、詳しく解ったら教えてよ」
「なんだー、結構こんな話、お好きなんじゃないですか!
任せておいてください、一番にお知らせに行きますから」
嬉しそうな彼女の顔。
――もう、来なくていいったら。
それにもう、そのストーカーはきっと給湯室には現れないよ。
きっと……ね。
あの子と話しているとどうもパワーを吸われている気がしてならない。
ぐったりと、まるで全力疾走をした後のような疲労を覚える。
人事管理課までの距離がいつもより遠く感じた。